リボンと王子様
「……いいえ。
千歳に会社を継いでもらいたいとは思っているけれど。
その為に千歳が好意をもつ方と将来を考えることは反対しないわ。
ただ、誰もいないというのなら話が変わってくるの」



有子おばさまはテーブルに置かれた湯呑みをゆっくりと手に取った。

ほっそりとした白い指がとても綺麗だった。



「公恵さんのようにお付きあいのある、さる方からお見合いの話をいただいたの。
その方のお嬢様を是非千歳にって」

「千歳くんは縁談の申込みが本当に多いわよねぇ。
特にご令嬢の方々の方から積極的にね。
千歳くんのあの容姿だもの、惹かれる気持ちもわかるけれど」

公恵叔母さんが有子おばさまが言いにくそうなことをさらっと告げる。

「千歳に話しても、どうせ適当にあしらうだけだと思うのよ。
なので事実関係を掴んでから話を持っていきたいのよね。
先方のお嬢様に変な期待をもたせてしまうことも申し訳ないし」


そうよね、と公恵叔母さんが頷く。

突拍子がつかない気もするけれど、話を聞いて腑に落ちた。


「……でも、いきなり現れたお手伝いさんにそんな話はなさらないのでは……」

「勿論、自ら話してくれるなんて期待していないわ、一筋縄じゃいかない子ですもの。
そういう影がないか、簡単な会話や普段の様子、家の中に置いてあるものから、然り気無く探ってほしいのよ!」

先刻までのおっとりした雰囲気は何処へやら。

有子おばさまはガッシリと私の両手を掴んだ。


「お願い!
千歳と年齢も近い穂花さんなら打ち解けやすいし、怪しまれないと思うの。
随分小さい頃に会ったきりだし、穂花さんだってことも気がつかない筈だし。
こんなことを頼める人は他にいないの」
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