リボンと王子様
涙を流さんばかりに懇願されて、私は断るタイミングを逸してしまう。

「……わ、わかりました。
ご期待に添えるかどうかわかりませんし……長い時間はお力になれないと思うのですが……」

精一杯、保険をかけた言い方をする。

「まあっ、引き受けてくれるのっ。
嬉しい、助かるわ!
ありがとう、穂花さんっ。
ええ、ええ、勿論よ。
とりあえず三ヶ月、三ヶ月でかまわないわっ。
ねっ、公恵さん?」

全身で喜びを表現する有子おばさまに少し尻込みしつつ。

公恵叔母さんは何故かとても嬉しそうにパンパンっと手を打つ。



「決まりね!
三ヶ月間、穂花ちゃんの仕事は松永室長に引き継いでもらうから。
たまに出勤をお願いするかもしれないけれど、基本は千歳くんのお手伝いさん優先で構わないわ」

二人は顔を見合わせて嬉しそうに微笑む。



……三ヶ月、かあ。

うん、とりあえずは。

違う経験がつめると思って頑張ってみよう。

お手伝いさんという職業は初めてだし、秘書に通じるいい勉強ができそうだ。


「あの、ご自宅はどちらになられるんですか?」

ふと、私は勤務先になる有子おばさまのご自宅の場所を知らないことに気がついた。


「自宅?」


不思議そうに有子おばさまは小首を傾げる。
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