リボンと王子様
「一旦自宅に戻ってくれても良かったんだけど。
あの子ったら嫌がっちゃって。
まあねぇ、市内からは離れてしまうし。
一人暮しも長いから、今更って思うのかもしれないわね」



ホウッと優雅な溜息をつきつつ、有子おばさまが頬に手を当てる。



「男の子だしねぇ。
瑞希も全然実家には寄り付かないわ。
樹もさっさと一人暮しがしたいって言ってるし。
穂花ちゃんみたく、就職まで一緒に暮らしてくれるなんて羨ましい限りよ」

ねえ、と二人で同意しあっている。



全然違う方向に話が進んでいると思い、私は慌てて尋ねる。

「お、叔母さんっ。
同じマンションって……」

ショックと驚きが抜けきらず、焦った声を出すと。



「大丈夫、部屋は別々よ。
同じ十階の穂花ちゃんは一号室、千歳くんは三号室。
千歳くん、事前に内覧する時間がないって言ってたから、とりあえず条件だけ聞いたの。
ネットで確認はしてもらってね。
三号室で構わないって言ってたから、大丈夫よ!」


やたら大丈夫、大丈夫を繰り返す公恵叔母さん。

違う、違う、気にしているところが抜本的にずれている。



「千歳なんてほぼ寝るために帰ってくるだけでしょうし。気に入らなければ、また落ち着いた頃に部屋探しをするって言っていたから……勝手ばかりを言ってしまってごめんなさいねえ、公恵さん」

「まあ、有子さんたら水くさいわ!
私達の仲じゃない。
気にしないで」

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