リボンと王子様
「お、叔母さんっ。
そうじゃなくて、そうじゃなくて!
三号室って私の真向かいの部屋でしょっ。
ち、近すぎるよ!」

「……あら、通勤時間短縮になるわよ?」



一瞬、それもそうか、と納得しかけそうになった。

イヤイヤ、違う、違う。



私が住んでいる公恵叔母さんのマンションは一つのフロアに四邸しかない。

それぞれが角部屋になるように作られた小規模ながら豪華な十二階建のマンションだ。



市内へのアクセスは抜群だし、近くにはショッピングモールもある。

最寄駅までは徒歩十分もかからない。



二年程前に建ったばかりの新しいこのマンションは、玄関オートロック、ロビーにはコンシェルジュさんが常駐という贅沢な設備だ。

最上階は公恵叔母さんが、仕事が遅くなった時や忙しい時に宿泊したり荷物置き部屋として使用していて。

十一階は将来瑞希くんか樹くんが住む予定らしい。



他の階はまだ空室もあるらしいけれど、今のところは賃貸マンションにしているらしい。

勿論ただの一介の秘書がこんな豪華なマンションに住める筈はない。

全て公恵叔母さんの厚意によるものだ。



私が一人暮しをしたいと聞くやいなや、ここに住みなさい、と譲らなかった。

大事な穂花ちゃんをご両親からお預りしているのだし、何より秘書の仕事は時間に不規則なことが多々あるからと。

私はそんな公恵叔母さんのご厚意に甘え、家賃も他の方には申し訳ないけれど格安にしてもらっている。



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