リボンと王子様
「通勤時間って、そもそも私が誰かすぐにバレるよ?
怪しいじゃない!」

「うーん、まあ、言われてみたらそうねえ。
でも他に空き部屋ないのよ。
十一階は来月から工事に入るし、二号室と四号室は今、ちょっと頼まれてるし。
そうだわ、穂花ちゃん。
変装したらいいんじゃない?」

「へ、変装?」

「あら、いいわね!
そうね、千歳と穂花さんは暫く顔を会わせていないからお互い初対面みたいなものだろうし。
きっとわからないわよ。
お手伝いさんが穂花さんだと知られなければいいんですもの」



有子おばさまが身を乗り出して賛成する。

「いや、でもそんなにうまくいくわけ……」

「大丈夫よ、コンシェルジュの田村さんにもお願いしておくわ。
そもそもそんなに千歳くんと顔を合わせる機会はない筈だし」



聞く耳をもたない二人の女性に押しきられ。

何故か変装してお手伝いさんを引き受けることになってしまった。



「……あの、もし、もしもですけど。
千歳さんに私の素性がばれてしまったら……」

口に出した途端、じっと凝視される。

「……それは困るわねぇ、変に勘繰られても困るし。
まあ、そうなったらそうなった時だから何とかなるわよ」

「そうそう、それはその時に考えましょ」

ニッコリと有無を言わせない綺麗な二人の女性の微笑みにそれ以上は言えなくなってしまった。
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