リボンと王子様
今後の雇い主が、不機嫌な様子でロビーにいるなんて露にも思わず。

私は三号室にいた。


今日は田村さんと『お手伝いさん』から『穂花』に切り替わる着替え等の練習を、午後六時過ぎから行う約束をしていたためだ。

そのため変装をしていた。


玄関に備え付けの全身が映る鏡で確認する。


……割と様になっている……?


紺色の綿のカーディガンに細身のブルーデニム。

白地に紺色の細いストライプ柄のエプロン。



お手伝いさん、というのでよく小説や漫画に出てくメイドさん姿を想像して焦っていたのだけれど。

あくまで家事を代行するだけだから、最低限、節度と清潔感があって働きやすい服装で大丈夫だと有子おばさまに言われた。

デニムでも問題ないとのことだった。

ボブスタイルのウィッグも黒縁眼鏡もきちんと装着した。

瞳の色も誤魔化せていると思う。



「大丈夫、よね?」

そっと言葉を口に出す。



家主が戻っていないのだから当たり前だけれど、きちんとした引っ越し荷物は届いていない。

備え付けの家具に、千歳さんが手配をしたらしい真新しいベッドやソファは昨日届いていたけれど。

……私がいなかったら、この荷物は誰が受けとる予定だったのか、いささか疑問だ。
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