リボンと王子様
ギュッと拳を握りしめる。

……落ち着いて、落ち着いて、私。

頼まれたことだし。

私は秘書だし。

常に冷静沈着は当たり前でしょう。

こんなことで引き下がっていられない。




すうっと深呼吸して口を開く。

「……確かに私にお話しをくださったのは、奥様です。
勝手に部屋におりまして、申し訳ございません。
響様の帰国日までにお部屋の準備をするように言われておりましたし、ソファも昨日届いたばかりでして。
響様の帰国日もソファを発注されたことも存じ上げず、申し訳ございません」



シレッと無表情に徹して謝罪する。

そう。

仕事だと思えば割りきれるし、狼狽えない。



全ては言い方一つ、持って行き方一つだってよく松永室長にもよく言われた。



「……私が気に入らなければ奥様にお伝えください。
私はあくまでも奥様からご依頼をいただいたので。
本日はお疲れの中、失礼いたしました」



私はエプロンを取り、私物の鞄を手に玄関へ向かう。

彼は全く表情を変えなかったけれど。

綺麗な瞳には面白そうな光が宿り、口角はあがっていた。



「ハハッ。
面白いね、君」



背中から聞こえた朗らかな声に。

驚いて足を止める。
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