リボンと王子様
気持ちは突っ張っていても、足は緊張で既にガクガク震えそうになっている。

でも私は間違っていない筈。

本当はこの漆黒の瞳を見返すだけで、いっぱいいっぱいだ。



キスだって、あの日以来、体験したことはないのだから。

どうしてこんな目に……。 



俯いて、ギリッと唇を噛み締めた時。



冷たいものが唇に触れた。

視線を移せば、千歳さんの綺麗な指が私の噛み締めた唇に触れていた。

そっと壊れものを扱うような仕草に瞠目する。



「……ごめん、やり過ぎた」

「……え?」

「傷になるから、噛み締めるな。
……もうしない」



夜色の瞳に後悔のような優しさを滲ませて。

そっと彼は私から離れる。

唇に触れた綺麗な指を最後まで残して。



「……ごめん」



先刻までの不遜な態度は何処へやら。

人が変わったような姿に呆然とする。



そんな私に彼は漆黒の瞳を眇めて、小さく微笑んだ。

その瞳には微かだけれど、温もりが見えた。



「……強引な女を散々見てきたから。
それこそ無理矢理、居座ったり。
友達や親族の伝手やら使えるものは何でも使ってくるし。
色仕掛も普通にあった。
表面上は従順で無害を装って、心中は真っ黒。
俺の外見だけに惹かれる女もいたし。
……だから君もその類いかな、と」



申し訳なさそうな口調に。

私の力が抜けた。



「えっ、ちょっと!」



ガクンッ。

床にへたりこむ寸前に千歳さんが私を抱き止めた。

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