リボンと王子様
千歳さんの瞳が苦手だ。

あの日と変わらない、何もかもを見透かしてしまいそうな引き込まれそうな漆黒の瞳。

あの瞳に見つめられると平静が保てない。



どうしてこんなにも千歳さんのことを考えてしまうのだろう。

……そんな気持ちは四年前に置いてきた筈だったのに。



あの日は。

私が私ではなかった日だから。

公恵叔母さんが魔法をかけてくれた日だから。


だからきっと。


あの日に感じた胸の震えや痛みも身体の奥が熱くなる気持ちや。

惹かれることへの恐れも。

日常に戻れば消えてしまう感覚だと思っていた。




そこから逃げ出したのは私。

囚われそうな自分が恐くて。

初めての感情に戸惑って。

二度と会わない、会えない。

そう思い込んで記憶に蓋をした。



なのに、出会ってしまった。

出会う筈のない人に。

あの日よりも鋭さを増した夜色の瞳は、私の記憶の蓋を簡単に開けて。

こんなにも落ち着かなくさせる。

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