リボンと王子様
カチャリ。

主の居ない部屋のドアを開ける。



先程まで人がいた微かな気配と温もりが残る。

薄曇りの空から細く漏れる光を取り込んだ部屋はうっすらと明るい。

この季節は気温も心地よく、幸い花粉症でもない私は自室の窓を開け放して過ごすことが多い。

先日、千歳さんに確認したところ、窓を開け放して換気しても構わないとのことだったので、今日は遠慮なくそうしようと思う。




電気を点ける必要のない仄かな明るさ。

私は基本的に夕方以前に電気を点けることが嫌いだ。

自然の柔らかな光が一日の時間の流れを感じて落ち着くから。



誰も居ない居室に向かって声を出し、頭を下げる。

「おはようございます。
お邪魔します」

持参したスリッパを履き、部屋へそっと足を踏み入れる。

真っ白なフローリングの床に淡いブルーのスリッパが映える。




幾つか積み上げられていた段ボール箱の数が減っている以外は二日前と様子は変わらなかった。

ただ、そこに人が生活をしている空気が何処と無く漂っていた。



リビングの片隅に荷物を置いて、仕事を始めた。

まずは全体の掃除から始める。

掃除機をかけて、床を拭いて、家具を拭いて……合間に洗濯を始める。

洗剤がきれそうになっていたので、ついでに他に買い出しが必要なものをリストアップする。



寝室に入るな、とは言われなかった為、ベッドシーツ等を交換する。

その時。

エプロンのポケットに入れてある連絡用スマートフォンが着信を知らせた。


< 79 / 248 >

この作品をシェア

pagetop