リボンと王子様
反射的に見た時刻は午後十二時半。


「はい、葛です」

シーツを交換する手を止めて、話す。


「お疲れ様、葛さん」

明るい声が耳に響く。



「お疲れ様です……」

「今、何処?」

気安い話し方の千歳さん。

「響様のお宅ですが」

真面目に返事をする。



「そんなことわかってるって。
俺のどの部屋にいるかってこと。
寝室?」

何故分かるのだろう、まさか監視カメラでも?

思わずキョロキョロしながら返事をする。



「……寝室ですが」

「……別に監視カメラとか仕込んでないから。
言い忘れていたんだけど、寝室にある棚の一番上の引き出しは開けないでくれる?
大事なものが入れてあるから」



指示を受けて棚に視線を動かす。

壁際に置いてある黒の棚には幾つかの引き出しがあった。



「……畏まりました」

「よろしく。
あ、掃除は程々にして昼メシちゃんと食えよ」

これまた見えているかのような台詞を残して電話は切れた。


「……本当に見えてるんじゃないの?」

ポソリと言って私は作業を再開した。

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