リボンと王子様
秘密を知った日
それから半月が経って。

仕事内容もリズムも少しずつ掴めてきた。



初日の対面以来、千歳さんと顔を合わせることはなかった。

帰宅していないのかと思うほど、部屋には生活感が感じられない日もあり、千歳さんの多忙さが窺えた。



千歳さんは時折電話をしてきては、要望や用事を伝えてくる。

来客もなく、決まった時間通り毎日の仕事は終わり、過ごしやすい仕事環境だった。



そんな毎日のなかで、私は有子おばさまからの依頼を決行し始めた。

書斎代わりになっている部屋の本棚の本は溢れそうになっているけれど、千歳さんは基本的に持ち物が少なく、幾つかある棚も空きが多かった。

そのため、有子おばさまが期待しているような結果は得られていない。

女性関係どころか友人関係を彷彿できるものすら見当たらないのだ。



数日前に有子おばさまから連絡があった際にその旨をお伝えしたところ、千歳さんの生活風景がわかっていたのか、特に驚かれることもなかった。

ただ穏やかに何かあったら連絡を、とだけ言われた。



むしろ有子おばさまは私の毎日を心配してくださっていた。

仕事はキツくないか、千歳さんは雇用主として真摯に対応してくれているか、無茶なことを言われていないか等々。

挙げ句のはてには仕事への感謝を伝えてくださり、食事に行きましょうと誘ってくださったり、まるで母親のように優しく労ってくれた。



千歳さんの秘密を千歳さんに黙って暴こうとしているようで、勤めて数日だけれども罪悪感を覚えるようになった。

有子おばさまの労りが嬉しくも辛かった。


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