リボンと王子様
いきなりの出来事にしばらくの間呆然としていたけれど。

ハッと我に返った。



今、千歳さん、何て言っていた?

送るって言った?

……それはマズイ、マズすぎる!



私の自宅は真向いにあるし、実家の場所は明かせない。


とりあえず……。

タクシーを拾って帰宅したことにしよう……!

急いでこの部屋を出ないと……。



焦りながら鞄を取り上げ、急いで戸締まりをする。

電気を消して、慌ただしく靴を履き、玄関ドアを施錠した。



急いで真向かいの自宅へと向かう。

自宅の玄関ドアを開けて、室内に滑り込んだ。

鞄から連絡用のスマートフォンを取り出して、千歳さんのスマートフォンにメッセージを送った。



『タクシーを拾うことが出来ましたので、失礼いたします。
お気遣いいただき、ありがとうございました。
本日は大変申し訳ございませんでした』



急いだため、素っ気ない文章になってしまったけれど、そんなことを気にしている余裕もなく。

送信することに神経を集中させていた。



案の定、すぐに千歳さんから電話がかかってきたけれど。

タクシーに乗っていないことがバレるわけにはいかないので、申し訳ないけれど応答しなかった。



『車中ですので応答できません。
もうすぐ自宅に到着いたしますのでご安心ください』



再び考えを巡らせてメッセージを送ると。


『頑固者』



一言、返答が来て。

思わず顔をしかめた。

それから。



『足、無理するな。
気を付けて帰れよ』



メッセージが届いて。

しかめっ面を続けることが難しくなった。

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