リボンと王子様
フゥ、と一息ついて。

色々あった一日を思い返した。


「……長い一日だったな……」


自分の中で色々な思いが交錯していた。

今日新たに気づいた感情に少し疲弊していた。



ノロノロと手を洗うために、洗面所に足を踏み入れて鏡を見た途端。

変装したままだったことに気付いた。



……このまま帰ってきてしまった……!



慌てていたせいで、変装のことを忘れてしまっていた。



誰にも見られていないよね……?



ドクンドクン、と心臓がうるさく音をたてる。

今頃になって心配になる。

とにかく、田村さんのロッカーに変装セットを置いてこなければ……。



廻らない頭でそれだけを考え、急いで着替えた。

カーキ色のパンツに履き替え、パステルブルーのお気に入りのパーカーをさっと羽織る。

ウィッグ、コンタクトと眼鏡を外して、スニーカーを履く。



……千歳さんがロビーにいる可能性を考えたけれど。

あれから時間が経っているし、さすがにもう部屋に戻っている筈。

念のためにそうっと玄関ドアを開けて、三号室の気配を窺いながら、やって来たエレベーターに乗り込んだ。

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