宮花物語
「そなたと一緒にいると、私は、自分が今まで生きてきた意味を、思い知らされるよ。」

「生きてきた……意味ですか?」

「ああ。荒んだ戦いや目まぐるしい仕事の中で、どうして私は、この王家に生まれたのだろうと、自分が王である事に、嫌気がさす事もあった。」

「信志様……」

黄杏は、そっと信志の手を、握った。

「だが、今は違う。王でなければ、そなたと出会う事など、できなかった。」

優しくて甘い声が、黄杏の耳元に届く。

「だから、黄杏も。自分が自分である事を、恥じる事はない。黄杏が、あの村で育ってくれたから、そなたが妃候補ではなく、宴の準備をしていたから、こうして愛し合う事ができたんだ。」

黄杏は、信志と初めて会った、月夜の事を思い出した。


月に目を奪われ、真っ直ぐに池に落ちて行ってしまった人。

それが今の、夫になる人だったなんて。

黄杏も、巡り会えた奇跡に、感謝した。
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