宮花物語
「1ヶ月で全てを知られては、私の方が困る。」

そしてまた可笑しそうに笑う黄杏。

信志は一日の中で、この時間が何よりも、好きだった。


黄杏の笑顔を酒の肴にして、他愛のない話を聞き、少し酔うと、黄杏と一緒に湯殿に入り、寝る前には情を交わして、その可愛い寝息を聞きながら、眠りにつく。

信志に、今までの人生の中で、至福の時が訪れていた。


そんな事が起こっているとは、汁ほどにも分からない紅梅は、1ヶ月以上王を独り占めしている黄杏を、憎らしく思っていた。

たまたま湯殿に入っている時、王よりも先に湯殿に着いた黄杏と、鉢合わせした。

王の情愛を一身に浴びているせいか、黄杏の肌艶は、羨ましいほどによかった。


「紅梅様……」

しかも、自分の顔を見て、立ち去ろうとした黄杏。

「ご遠慮なさらずに、一緒に入りましょうよ、黄杏さん。」

親切そうに、声を掛けた。

「あの……」
< 111 / 438 >

この作品をシェア

pagetop