宮花物語
部屋の中には、いつもよりも、二人の甘い声が響き渡る。

「黄杏……そなたの気持ちに応える為に、激しく抱いていたら、もう……」

「待って……まだ……」

「まだ?今日は、いつもよりも、ねだるな……」

「お願い……まだ……」

黄杏の目に、涙が溜まる。

そんな黄杏を見て、信志は額に口づけを落とした。


「どうした?何かあったのか?」

「いいえ……」

顔を背けて、自分を見ようとしない黄杏に、信志は優しく動く。

その快楽に溺れて、閉じていた黄杏の口も、ほんの少し開く。

「誰かに、何か言われたのか?」

柔らかな声が、黄杏の耳に届く。

「気にするな。私達を引き裂くなど、誰にもできぬ事だ。」

黄杏が涙目になりながら、信志を見た。


相変わらず熱を帯びた瞳。

自分だけの信志。


「黄杏、そなただけだ。何があっても、離したくないと思う女は……」

黄杏は、そっと信志の首に腕を回し、力強く抱き寄せた。
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