宮花物語
「信志様……どうか、私のところだけではなく、他のお妃様の元へ、お通い下さいませ……」

信志は、顔を上げた。

だが黄杏は、目を合わせてはくれない。

「私は、もう十分でございます。」

その言葉とは裏腹に、涙が止まらない。


「だから、泣いていたのか。」

「いえ……」

「嘘を申すな。本当は、他の妃の元へ、行ってほしくはないくせに。」

自分の本心を見抜かれ、黄杏は両手で、顔を隠した。

「誰かに言われたのか?」

「いいえ。」

信志は黄杏の首元に、顔を埋めた。


何も知らない黄杏が、他の妃の元へ行けなどど、自分から言うはずはない。

だが、その言葉を言うという事は、誰かにそうしろと、圧力をかけられているのだ。

このまま黄杏の元へ通い続ければ、その者の手によって、黄杏の命が危なくなるかもしれない。


「分かった。明日から、他の妃の元へも通おうとしよう。」
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