宮花物語
その言葉を聞いて、黄杏の胸は締め付けられた。

心のどこかで、通うのはそなたの屋敷だけだと、言ってほしかった。


「泣くな、黄杏。これが最後の逢瀬ではない。」

「はい……」

「なるべく早く、戻ってくる。」

「はい。」

何を言っても、今は嘘にしか聞こえない。

「黄杏……黄杏!」

そんな時は、相手の名前を呼ぶしかなかった。


「信志様ぁあ!」

「っ!」

その夜は、二人で一緒に果てた後、朝が来るまで、肌を合わせて寝るのであった。



次の夜。

信志は、どの妃の元にも、行く事はなかった。

湯殿の近くの、休憩所に横になった。

だが直ぐに、白蓮に見つかってしまった。

「まあ、信寧王様。このような場所で寝られると、風邪を召されますよ。」

白蓮は、信志の頭の横に座った。

「今日は、どなたの元へ行かれるのですか?」

「どこにも行かぬ。」

そう言った信志が、寂しそうに見えた。
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