宮花物語
信志の口から、“男として”という言葉が出て、青蘭は益々照れてしまう。

男と女の関係に、この国の王が成りたがっている。

それは落ちぶれたとは言え、姫君に育った青蘭の自尊心を擽った。

「ここが嫌だと言うのなら、今夜……そなたの部屋に行っても……いいだろうか。」

青蘭の心臓の鼓動が、早くなる。

「あの……」

「いや、いいんだ。君は急にいなくなる訳じゃないんだから、今急がなくても……」

その時、信志の自分を襲おうとした感情が、一時の欲情ではなく、本当に関係を築きたいのだと、青蘭は知った。

「はい。お待ちしております。」

「えっ?」

驚いた信志の顔は、まるで一国の王には見えない。

まるで、女と関係を持った事がない、純粋な青年のようだった。

「今夜、部屋の鍵を開けておきます。」

「ああ……」

その気持ちに嘘はないのだと、若いなりに感じられた時だった。
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