宮花物語
それを聞く度に、青蘭の心は満たされていった。

だが、その信頼が崩れたのは、紅梅を新しい妃に迎えた時だった。

「あの女は、面白い。一晩中話していても、全く飽きない。子供も好きだと言っていた。私を慕ってくれているようだから、早く子を作ってやらねばな。」

その一言に、青蘭の心が崩れた。


男の気持ちを繋ぎ止めるのは、肉体的に満足させる事だと信じていた青蘭にとって、抱かずとも心を繋ぎ止められる紅梅は、一種の敵にも似た存在だった。

そして、今度新しい妃に迎えた黄杏は、身も体も、王を捉えて離さない。

青蘭は、全てが幻で、全てが嘘のように感じた。


「どうした?青蘭。浮かない顔だな。」

「いいえ。初めて王に、抱かれた日の事を、思い出していたのです。」

すると信志は、青蘭を抱き寄せ、頬に口づけを落とした。

「あの時は、君を自分のものにできて、天にも昇るような心地だった。」

その甘い言葉も、今の青蘭には、虚しく聞こえるのだった。
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