宮花物語
「いいなぁ……」

途端に羨ましくなった黄杏。

結局、教養らしい教養などまだ無く、やっと最近、産まれてくる子の為に、白蓮から貰った産着へ、刺繍を施すようになった。

結局人は、無い物ねだり。

端から見れば、子ができた黄杏とて、羨ましいのだ。


その時だった。

「痛っ!」

長刀が落ちる音と共に、側にうずくまった紅梅の姿があった。

「紅梅!」

最初に駆けつけたのは、王だった。

「どうした?怪我をしたのか?」

王が紅梅の手を見ると、血が流れていた。

「大変だ。」

上着の間から、布切れを出すと、紅梅の手に巻こうとする王。

「だ、大丈夫ですから。」

紅梅が遠慮して手を引くと、王はその手をすかさず掴んだ。

「跡が残ってはいけない。直ぐに医師を呼べ。」

そう言って、王は紅梅を抱き上げた。


「お、王!黄杏さんが、見ています。」

「黄杏が?」

二人が黄杏がいた場所を見ると、既に黄杏はいなくなっていた。
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