宮花物語
こんな時に、黒音がいるなんて。

なんとか黒音を、黄杏から離す手立ては、ないのか。


「黒音。水を汲んできて来てくれない?」

青蘭は黒音に、お椀を渡した。

「畏まりました。」

黒音は青蘭からそのお椀を受けとると、直ぐ、他の女人に頼んでしまった。

黄杏付きの女人の中でも、特に黄杏の信頼が厚い黒音は、他の女人も束ねている女人頭だ。

青蘭は、困り果てた。

黒音を黄杏から引き離すのは、一筋縄ではいかない。


「お体はもう、よろしくて?黄杏さん。」

「ええ。お陰様で。黒音の介護がいいので、治りも早いわ。」

青蘭はちらっと、黒音を見た。

「……黒音は、頼りになるわね。」

青蘭がそう言うと、黄杏は穏やかな顔でこう言った。

「そうなの。里の村から宮殿に来るまでの間の、旅で知り合ったんだけど、屈託がなくて、話も合ってね。」

「旅の途中で?へえ。」
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