宮花物語
黒音は、まだ若い。

子ができる可能性が、大いにある。

明るくて、頭もいい。

そして何より、妃になりたがっている。

もしかしたら、いい具合に妊娠するかもしれない。

黄杏も、ずっと悩んだ末に出した、答えだった。


「分かった。」

それだけを言って、信志は屋敷を出ていった。

「お妃様……」

黒音が手を差し出す。

思わず、その手を振り払ってしまった。

まだ、お妃になるかも分からないと言うのに。

「すまない、黒音。」

「いいえ。」

すると黄杏は、立ち上がって寝室に、入っていった。

「黒音、今日はもう、お休みなさい。」

「ですが、お妃様……」

「私はもう、大丈夫だから。」

そう言って、寝室にこもってしまった黄杏。


寝台に横になると、ここでいくつも味わった、蜜月を思い出す。

何度も、名前も呼んでくれた。

何度も、愛していると。

何度も、そなただけだと。

聞き飽きる程に、耳元で囁いてくれた信志。
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