宮花物語
「そう、申すと思っていた。」

「えっ……」

黒音は、ドキッとした。

「仕えている妃にそう言われれば、断る事もできぬのであろう。」

信寧王は、黒音に背中を向けると、そのまま立ち去ろうとした。

「あ、あの!」

黒音は、慌てて立ち上がった。

「黄杏様に、言われたからではありません!」

王は少しだけ、振り返った。

「黄杏様は、私が王の妃になりたいと言っていたのを、お耳にされたのです。」

後ろを向いた信寧王に、黒音は両手を握り合わせた。

「お願いです、王!私を、妃にしてください!必ず跡継ぎを産んでみせます!」

握る力が強すぎて、両腕がブルブルと震える。

「……悪いが今は、新しい妃を迎える気はない。」

そう言うと信寧王は、稽古場を後にした。


一人残された黒音は、小さくため息をついた。

あれだけ身分の高いお人なら、妃など腐るくらいいてもおかしくはないのに、何を迷っているのか。
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