宮花物語
髪を結い終えた黄杏は、立ち上がると黒音の前に座り、手を握りしめた。

だが黒音は、ここではいとは言えなかった。

黄杏の中にまだ、信寧王への愛が、溢れだしていたからだ。

これが少しでも萎まない限り、自分の安定した妃の地位は、訪れないかもしれない。


「信寧王様と黄杏様は、相思相愛の仲なのですね。」

「そうかしら……」

黄杏は、悲しい顔を見せた。

「信寧王様は、私にはっきりと仰せになりました。新しい妃を、迎える気はないと。」

「……王が?」

黄杏の顔が、みるみる明るくなっていく。

「はい。おそらく信寧王様の胸の内には、黄杏様がおありなのだと思います。」

動揺する黄杏に、黒音は作戦が動き出した事を感じた。


「王はまだ……私の事を想って下さっている?」

「はい。」

黒音が返事をすると、黄杏は立ち上がった。

「今……王は、どこにいらっしゃるのかしら。」
< 182 / 438 >

この作品をシェア

pagetop