宮花物語
黄杏は、信志に会わないまま、屋敷へと戻ってきた。

「お帰りなさいませ。」

出迎えたのは、黒音だった。

彼女はいつも通り、水を差し出す。

「如何でしたか?」

黒音に尋ねられても、黄杏は言葉も出なかった。


自分は一体、何を信じたのだろう。

たった一つの愛?

愛って、

愛って……

何なのだろう。

黄杏の目から、スーっと涙が溢れた。


「黄杏様?」

「ごめんなさい、黒音。」

黄杏は、涙を拭いた。

「あなたはもし、愛する人に愛する相手がいたら、どうする?」

黒音は、うつ向いて考えている。

「……とても切なく思います。」

「そうよね。」

黄杏は、黒音の手の上に、自分の手を重ねた。

「ですが、愛する人に愛されていないと知った時に、本当の愛が試されるとも、申します。」

「えっ……」

黄杏の中でも、何かが波紋を広げた。
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