宮花物語
白蓮は唇を噛み締めながら、信志の腕を掴んだ。

「……分かった。」

「ご理解頂き、有り難うございます。」

白蓮はほっと、安心した表情を見せた。

「白蓮、そんなに嬉しいか?」

「えっ?」

顔を上げた白蓮を、信志は無表情で見下ろした。

「私が、子を産ませる為に、新しい妃を迎える事が、そんなに嬉しいか?」

白蓮は、居たたまれなくなって、信志から手を離した。

「……この国の、未来の為です。」

信志はサッと、白蓮の横を通り抜けた。

それが白蓮には、何よりも辛かった。

「私とて!」

白蓮の叫びに、信志は振り返った。

「……あなたが、新しい女を抱くなんて、耐えられなかった時もあります!」

白蓮も、そっと振り返った。

「でも、私は王妃なのです。そんな事、申している立場ではないのです。」

か細い声で言ったのに、信志は眉一つ変えない。

「さすがだな。見上げた心構えよ。」

それだけ言って、信志は部屋を出て行った。
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