宮花物語
第10章 思わぬ客人
再び信志の愛を取り戻した黄杏は、幸せな日々を暮らしていた。

他の妃の羨望を、一心に受けながら。


「今夜の寝所は、また黄杏の元ですか?」

一緒に夕食をとっていた白蓮は、何気なく尋ねた。

「……ああ。」

まるで当たり前だと言わんばかりに、返事をする信志。

「ここのところ、毎日ですね。」

「それがどうかしたか?」

白蓮はほんの少しだけ、信志の顔を見た。

喜怒哀楽もない、無表情。

要するに信志の中では、毎晩黄杏の元へ通う事は、毎晩自分の部屋に帰るという感覚なのだ。


「……他の妃から、またため息が漏れ始めております。」

だがさすがにこの言葉だけは、紳士の箸を持つ手を、止めたようだ。

「黄杏の元へ通うなとは、申しません。ただ他の妃の事も、頭の片隅に置いて下さいませ。」

冷静な白蓮の発言に、信志は返す言葉もない。

「分かった。」

「やけに素直でございますね。」
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