宮花物語
「そなたの言う事は、尤もだ。」

そしてまた箸が進む信志に、白蓮は胸が苦しくなった。

”今少しだけ、見逃してほしい”

そう言うと思っていたのに。

信志は返って、自分の気持ちを抑えているような気までしてくる。

そう。

正妻の白蓮から見ても、思い悩む程に、信志は黄杏に恋をしているのだ。


「幸せだこと……」

「えっ?」

顔を上げた信志は、もう自分の知っている信志ではない。

自分の事は、母か姉ぐらいにしか、思っていないのだろう。

「……こちらの話です。」

「ああ。」


そして時は過ぎ、夕食を終えた信志は、黄杏の元へと屋敷を出る事になった。

「お気をつけて。」

屋敷の玄関で、白蓮が見送る。

他の妃の屋敷に行く夫を見送る事に、すっかり慣れてしまった自分がいた。

「白蓮。」

「はい。」

知らない間に、信志は白蓮の手を握っていた。

「許してくれとは、言わぬ。」
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