宮花物語
「王?」

「ただ……分かってくれ。」

白蓮は、息が止まりそうになった。


「ええ……分かっております。黄杏はいい妃です。」

すると信志は、久々に白蓮に笑顔を向けた。

「そうであったな。さすがは私の伴侶よ。」

そう言って信志の手は、スルッと離れて行った。


”伴侶”と呼ばれて、嬉しいはずの白蓮。

だが白蓮を照らす月明かりは、寂しいものだった。


そんな白蓮を置いて、信志が向かった先は、恋しい妃・黄杏の屋敷だ。

「お待ちしておりました。」

黄杏は毎晩、信志を笑顔で迎えてくれた。

自分への気持ちは、変わっていない。

そう思えた黄杏は、どこか吹っ切れたのだ。

そして信志も、あの村で逢瀬を交わしていた黄杏に戻ったみたいで、また熱くなっているのが分かっていた。


誰にも知られていない恋に、互いだけを信じあっていた日々。

そんな甘い時間が、今もこうして二人の間に、流れているのだった。
< 213 / 438 >

この作品をシェア

pagetop