宮花物語
その夜の事。

一緒に寝ていた信志と黄杏の耳に、女の叫び声が聞こえた。

「どこからだ?」

体を起こした信志に、隣の部屋に控えていた女人が、うろたえた様子で答える。

「あれは……黒音様の屋敷からでございます。」

それを聞いた信志は、上着を羽織った。

「信志様!」

「ここから離れるなよ、黄杏。」

そう言って信志は、黄杏の屋敷を出た。

黒音の屋敷と、黄杏の屋敷は、目と鼻の先。

一番に駆け付けた信志は、黒音の屋敷から出ていく、男の姿を見た。


「黒音!」

屋敷の入り口を開くと、奥の方で女人達と固まって震えていた。

「大丈夫か?」

信志は黒音の前に、膝を付いた。

「は……い……」

震えている黒音を、信志は片腕で抱きしめた。

「怖かっただろうに。何が起こった?」

すると側にいた女人の一人が、大声で叫んだ。

「盗賊です!」

「盗賊!?この後宮に、盗みを働こうとする者がいるのか!」
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