宮花物語
「将拓殿、どうか顔を上げてください!」

勇俊は、将拓の腕を掴んだ。

「お妃様の兄君に頭を下げられるなど、私には恐れ多い事でございます。」

「それなのです!」

将拓も、護衛長の腕を掴む。

「兄がいる身で妃になったと知れ渡れば、黄杏は宮中を追われる。それだけは、何とか避けたいのだ。」

「兄君……」

「黄杏は、心の底から王を恋慕っておられるのだ。兄として、好いた方と添わせてやりたい。我が身はどうなっても構わぬ。」

「そこまで、妹君を思われているのか。」

将拓は再び、勇俊に頭を下げた。

「お願い致します。どうか、お力を。」

だが勇俊に、そこまでの権限はない。

困り果てる勇俊に、黄杏は呟いた。


「兄上のお気持ちだけで、私は十分幸せです。」

「黄杏……」

「お妃様?」

二人を前に、黄杏は力なく笑った。

「そもそも、妃の器ではない私が、のこのこと宮中に来たのが、間違いだったのです。」
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