宮花物語
「そんな事はない!黄杏。そなたは、王に妃として請われたのだ。十分、妃としての器があるではないか。」

慰めてくれる兄に、黄杏は微笑みながら涙を流した。

「私が妃になる為に、兄上はご自分の人生をお捨てになられました。あのままご出世なされば、宮中に召されたのは、兄上だったかもしれないのに。」

「黄杏。私の方こそ、重責を担う役人の器ではなかったのだ。捨ててよかったのだ。」

勇俊は、目を見開いた。

「南方の役人?……将拓殿?」

黄杏と将拓は、固まっている勇俊を見た。

「そうでしたか。あの将拓殿でございましたか。」

「護衛長殿?」

そして今度は、勇俊が将拓に頭を下げた。

「地方の役人で、文武両道に優れ、家臣達からも信頼が厚く、民からも慕われている者がいると、都の噂に聞きました。その後、噂を聞かなくなりましたので、そのまま忘れておりましたが……」


勇俊の胸が、熱くなった。
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