宮花物語
「お願いです……黄杏にだけは……黄杏にだけは……」

将拓は魘されるように、何度も何度も呟いた。

「……仕方ない。紅梅の屋敷へ。」

「はい。」

二人は将拓を、黄杏の屋敷の隣にある、紅梅の屋敷へと運び入れた。


「きゃああああ!」

紅梅の女人が驚いて、水の入った徳利を落としてしまった。

「どうかしたのですか?」

寝所から紅梅が顔を出す。

「……お父上様が……」

「父上が?」

胸騒ぎを覚えた紅梅が、隣の部屋に行くと、床には血まみれの男が、倒れていた。

「こ、これは!」

「紅梅!すまぬが、場所を借りるぞ!」

忠仁は、将拓の服を剥がしていく。

「酒は?酒はあるか!」

「は、はい!」

女人が奥から酒を持ってくると、忠仁はそれを口に含み、将拓の腹の傷へと吹きかけた。

「うううううっ!」

傷口が染みる将拓は、唸り始める。

「次は、頭の方か。」

忠仁は、左目に巻いてある布を取ると、あまりの惨劇に、顔を反らした。
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