宮花物語
「……左目が……潰れている……」

あの有能な将拓が、片目だけになるなんて……

忠仁は、床を思いっきり拳で叩いた。


その時ようやく、医者が紅梅の屋敷へと辿り着いた。

「怪我人は?」

「ここです!」

勇俊が、床を指さす。

「ほう、腹に左目か。直ぐに縫い合わすか。熱湯を用意してくれ。それと、寝台を借りる事はできますかな。」

「どうぞ。」

紅梅は、自分の寝台へと招き入れた。

「すまぬ、紅梅。」

「何を。このような事は慣れております。」

紅梅は、忠仁に微笑んで見せた。


「ところで、どなたなのです?」

紅梅の質問に、忠仁と勇俊は、顔を合わせた。

「……紅梅。誰にも言わないでくれ。黄杏様の兄君だ。」

「兄君!?」

紅梅は、口を手で覆った。

「……まさか。妃は、兄を持たない娘に限るはず。」

「いろいろ訳があってな。だが、それが白蓮様のお耳に入ったのだ。」
< 279 / 438 >

この作品をシェア

pagetop