宮花物語
将拓は、紅梅に手を伸ばした。

「ご心配なさいますな。怪我が治り次第、私は直ぐに立ち去ります。」

「兄君殿……」

今日会ったばかりだと言うのに、なんという気の使い方。

その上、自分は瀕死の状態であると言うのに。


「紅梅。」

「は、はい。」

忠仁はじっと、紅梅を見つめた。

「私は決めた。あの者を、私の側に置く。」

「えっ!?」

紅梅の胸がざわつく。

「……白蓮奥様に知られたら、如何されるのですか?いえ、もし黄杏さんの兄君様と世間に知られたら?お咎めを受けるのは、黄杏さんだけではなくなりますよ?」

「だとすれば、私の養子にするまでだ。」

「養子!」

紅梅はあまりの事に、体がふらつき始めた。

「……なぜそこまで、あの者を……」

忠仁は、にこっと微笑んだ。

「無論、あの者に惚れたからよ。一介の商人にしておくには、勿体無い。」

「父上?」

紅梅は、高らかに笑う父親が、返って気の毒に思えてきた。


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