宮花物語
あれから白蓮の屋敷には、一切足を運んでいない信志。

噂ではやせ細って、一日の大半を、横になって過ごしているとか。

だが、白蓮の元を訪ねようにも、訪ねられない。

完全に、機会を失ってしまっていた。


「それと、白蓮様の事なのですが……」

忠仁の一言に、信志の体がビクッと飛び上がる。

「白蓮が、どうした?」

「はい。医師の見立てでは、このままですと、餓死する恐れもあると。」

「えっ?餓死?白蓮が?」

信志は驚いて、筆を入れていた箱を、落としてしまった。

慌てて拾おうとする信志の横から、忠仁の手が伸びる。

「忠仁……」

「どうか一度、白蓮様を見舞って頂けないでしょうか。」

落とした筆箱を拾いあげ、忠仁は机の上にそれを置いた。

「ああ……そうだな。」

信志は、忠仁が拾った筆箱を、しばらく見つめると、ハッとしたように、王宮を出て、白蓮の屋敷へと向かった。
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