宮花物語
「それよりも、王がお訪ねにならない事も、いつも気にかけていらっしゃいます。」

「黄杏が?」

その歪んだ顔は、紅梅から見ても、妬むくらいだ。

「お訪ねになって下さいませ。好き合おうて、一緒になった仲ではありませんか。」

自分で言うのも、辛くなってくる。

子まで成した夫の、想い人は違う人なのだ。

それを感じてか、信志も紅梅を抱き寄せる。


「すまぬ。」

「何を謝るのですか?」

「黄杏の事……子が産まれるまで、一緒にいると言ってたのに……」

心なしか、信志の抱きしめる力も、強くなる。

「いいのです。それに……」

紅梅は、信志から体を離した。

「それに、子を授かったのは、黄杏さんのお陰だと、この前お話致しましたでしょ?」

すると信志は、フッと鼻で笑った。

「そう、だったな。」

何か吹っ切れたような表情。

それがまた、運命の歯車が、回り始めた瞬間だった。
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