宮花物語
黄杏は、じっと信志を見つめる。

元はと言えば、足が遠のいたのは、信志の方。

だがそれは、紅梅の懐妊と言う、お目出度い事もあったからで、それを責める気は、黄杏にはない。

もっと言えば、懐妊した妃よりも、自分の元に通わせるだけの魅力が、自分になかったと言えば、それまでだ。


「……それも、致し方のない事だと、思います。」

信志は、盃を黄杏に近づけた。

「そなたは、離れていた私に、嫌みの一つも言わぬのだな。」

黄杏は、酒を注いだ。

「嫌みの一つでも申せば、何か変わるのですか?それに、嫌みを言われたら、お困りになるのは信志様の方でしょう?」

「そうであったとしても、少しの嫉妬ならば、返って可愛いと言うものだよ、黄杏。」

酒を呑み干す信志を、大人しく見つめる黄杏。

「そうですね。そう言う事も、いつの間にか、忘れてしまったのかもしれませんね。」

黄杏は、窓の外に浮かぶ、月を眺めた。
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