宮花物語
その姿が、なんだか侘しい感じに見えて、信志は思わず、黄杏を後ろから抱き寄せた。

「……もう二度と、寂しい思いはさせないよ。」

「ええ……」

気が抜けた返事。

まるで黄杏は、違う人になってしまったようだ。


「なんだかそなたは、世捨て人のようだね。」

「世捨て人……ですか?」

その言葉に、ようやく黄杏は、笑顔を見せた。

「ああ。まるで、一切の欲を浄化したかのようにね。」

そう言って、信志も笑った。

「欲なら……まだございます。」

黄杏は、信志の手を握ると、体を離し向かい合った。

「私は、あなた様のお子が、欲しいのです。」

「黄杏……」

あまりの真剣な黄杏の瞳に、信志の方が、気恥ずかしくなる。


「……そう言えば、紅梅に薬草をあげたのは、そなただったね。紅梅に先に子ができたから、自分も欲しくなったのかな。」

「それも、あるのかもしれません。」

普通なら、違うと否定するところだと言うのに、正直に認める黄杏。
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