宮花物語
それはそれで、可愛らしいとも思える。

「それよりも、好いた方のお子が、私は欲しいのです。」

信志は、それを聞いて、目から鱗が落ちた気がした。


今迄の自分は、妃達が競って子が欲しいと言うのは、自分の確固たる地位を、誰よりも早く築きたいが為だと思っていた。

王に仕える妃達は、子がいるかいないかで、死に場所さえも天と地程変わってしまう。

祖父王や父王の妃達の末路を、身近で見てきたからこそ、そう分かるのだ。


好きな男の、子が欲しい。

それは、王である自分の妃になっていなければ、黄杏は故郷の村で、当然そのような人生を送っていたかもしれない。

それなのに、自分を好きになってしまったせいで。

自分が黄杏を、王宮に連れて来てしまったせいで。

女として、当たり前のような人生も、黄杏にはまるで宝石を探し当てる程、遠い夢のようになってしまった。


「ああ、そうだな。」

信志は、黄杏をぎゅっと、抱きしめた。
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