宮花物語
短く切られた髪、汚れた服。

そしてその男が、美麗の寝所を覗こうと、顔を上げた時だ。

「……将拓?」

美麗の目に飛び込んで来たのは、死んだはずの将拓だった。

思わず後ずさりをすると、躓いて、立て掛けてあった木を倒してしまった。

その音に驚いた将拓は、急いで壁にへばりつき、見つからないようにしゃがみこむ。

そして、誰なのか確かめると、ゆっくりと立ち上がった。

「……美麗。」

お互いが、相手を確認した時、近寄って抱き締め合うのは、自然の成り行きだった。

「将拓。私は、夢を見ているのかしら。」

「そうなのかもしれない。今、美麗に会えるなんて。」

だが将拓は美麗の、美麗は将拓の温もりを感じいて、それが夢ではない事を知っていた。

「美麗。最後に、君を顔を見れてよかった。」

「最後?」

「私は、もう行かねばならぬ。幸せにな。」

将拓は、美麗を振りきって、走り去ろうとした。
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