キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。


トイレの個室に逃げようと思った。誰の視界にも入りたくないと思ったからだ。

だけど瞬時にフラッシュバックする。トイレで囲まれて、悪口を言われたときのこと。



『細くてきもいんだよ』
『幽霊が、大人しく消えてろ』
『死ね』



浴びせられた台詞、口調、トイレのなかの湿気の感覚まで覚えている。


気分が悪くなってトイレに逃げることをやめた。階段を下ろうかと思ったのだけれど、ちょうど登ってくる人影が見えて反対に上へ向かった。


人に会いたくない。誰にも醜い自分を見られたくない。自分が、恥ずかしい。


階段を最後まで登りきった。屋上に通じている扉は錆びていて、重くのしかかった。けれど全体重をかけて開くと、私は外へ出る。


空が青い。太陽が眩しい。

一歩、また一歩と歩いた。


上靴でコンクリートの上を歩くと、変な感じがする。鼻から空気を吸うと、変だとは思うのだけど、生きている感覚がした。


ほんと、変なの。死のうって飛び降りたのに。生きていることを実感するなんて。


空気が綺麗だからなのか、息を吸うと、身体の中にある有害な毒まで浄化されていくみたい。


見渡す限りの青と緑。そして、白い雲。


瞼を閉じて深呼吸をして、ゆっくり目を開けた。


世界って、こんなに広かったっけ……?



「ねえ、なにしてるの?」

「……⁉︎」



声にならないほど、驚いた。

誰もいないと思っていた屋上。突然かけられた声に、冗談抜きで心臓が止まりかけた。


< 10 / 145 >

この作品をシェア

pagetop