キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。


振り返った先に、男の子が立っていた。
目尻が垂れた、優しい目をしている背の高い男の子だ。


すると彼がニヤリと笑い、腕を後ろにやって、どこからか黒いステッキを出現させた。長さは十五センチほどだろうか。


私にはどこからどうやって彼がそのステッキを取り出したのかわからなかった。まるで、魔法みたいだった。



「これ、きみにあげるよ」

「……?」



そして次の瞬間、彼がステッキの先を撫で、息をふっと吹きかけると、そのステッキが鮮やかな花束に変身した。


私は驚いて目を見張った。心臓を掴まれたような感覚がした。


すごい。綺麗な花だ。



「って、あれ⁉︎ なんで泣いてるの⁉︎」

「え?……あ……あれ……っ?」



戸惑った。自分でも泣いていることに気づかなかったのだ。
だけど、ポロポロと溢れ出る涙が止まらない。
さっきまであんなに必死に泣かないように我慢していたはずなのに。



「ごめん、いきなり驚かせちゃったかな……」

「ちがうの……っ」



私が勝手に泣いちゃっているだけだ。自分でも、わけがわからない。
だけど、突然差し出された綺麗な花束に、感動したことは間違いない。
もしかしたら、嬉しくて泣いてしまったのかもしれない。


自分の感情がわからないなんて、初めてのことだ。



「僕、マジシャンになりたいんだ」

「…………」

「次は絶対にきみのこと笑わせてみせるから。約束」



ぐっと、差し出された花束。彼の笑顔。頷いて、受け取った。そしたら満足げに目の前の彼がさらに笑った。


手で握ったその花束。近くで見て、笑みがこぼれる。



「ところでさ、こんなところでなにしてるの?綾瀬さん」

「えっ……?」



綾瀬って……私の、苗字、か?

じゃあ彼はもしかして、"私"と彼は、顔見知りだったとか?



「なんだかいつもの綾瀬さんじゃないみたい」



首をかしげる仕草。



「そんなことないよ……」



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