キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。


理香子は、学校には来ていなかった。


お昼過ぎになって具合が最高潮に悪くなった。我慢して、我慢して、なんとか後夜祭まで頑張ろうと思ったのだ。けれど、クラクラして、気づいたら床に倒れこんでしまっていた。


騒然とするクラスメイトをよそに、「保健室に連れて行ってくる」と、私の膝の裏に腕を通して抱え上げたのは、隣の席の隼人だった。


意識が朦朧としながら、私はなされるがまま。


クラスメイトたちは黄色い悲鳴を短くあげて、口を手で塞いでいる女子生徒も視界の端で伺えた。


保健室に着くと、ベッドに横になるようにゆっくり降ろしてくれた。背中に、ベッドの柔らかい感触。


意外だった。まさか彼が私をここまで運んできてくれるなんて。


隼人からは、てっきり嫌われているのだと思っていた。


隣の席になったにもかかわらず、お互いにあまり話さないから。


入学したての頃は彼のことがかっこいいと思っていた。けれどちょっと変わっているところを見て幻滅してしまったのだ。


コインをいつも手に持ち、親指で真上に跳ねさせてはキャッチして、跳ねさせてはキャッチして……と、繰り返し行うその癖が私には目障りだった。


他にもある。授業中、彼の行うペン回しが視界の端にチラついてどうしても気が散ってしまうのだ。そんなに真剣に授業を受けているわけではないけれど。



「大丈夫?」

「……うん」

「具合い悪いなら、帰ったほうがいいよ」



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