キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。


あと残された時間はどれくらいなのだろう。
飛び降りたのが今日の夜八時ちょい過ぎだったはずだから、そのくらいに私はいなくなるのかな。


じゃああと二時間半程しかないのかな。


落ち着いている。穏やかで、凪いでいる。


本音はたくさんあるけれど、でも今はもう、いい。
事故を防ぐことができて、理香子ちゃんが生きると言ってくれた。
これ以上のハッピーエンドはきっとない。


最後に隼人くんのマジックショーを見られることも、運が良すぎた。
一度目の十月十九日と、二度目の今日とじゃ、心の持ちようが全然違う。真反対だ。


人生最後の日をこんな心境で迎えられて、私は……間違いなく幸せだ。


涙なんて、流す必要なんか、ないのだ。


***


後夜祭が終わったあと、私はあと片付けをしているクラスからそっと抜け出した。
途中、涙目な理香子ちゃんから腕を掴まれたけれど「まだ大丈夫だよ。トイレに行ってくるね」と言って聞かせた。


でもそれは嘘で、実際に訪れたのは思い入れのありすぎる屋上だった。


星空を見る。吸い込まれそうなほど綺麗だ。むしろ吸い込まれたい。
さよならを言うのは、辛い。だからひとりでここにやって来た。


命の灯火が消えるのを、そっと待つ。


その、つもりだった。



「ゆり……!」



──バンッ!!


屋上の扉が勢いよく開き、私の心臓は止まりかけた。
やって来たのは隼人くんだった。やっぱり、見つかったか。


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