キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。
朝のホームルームが終わって始業式が終わったあとの教室。ざわざわとしたなかで私はひとり、席について周りの音をシャットダウンして、今までの自分の人生を振り返っていた。
「やっぱり変だよ。具合悪いんでしょ?保健室に行こうよ」
……美樹って子は、なんて幸せな女の子だろうか。
こんなにも心配してくれる友だちがいる。私にはいなかったのに。同じ、高校生の女の子なのに。
「大丈夫。考えごとしてただけだから……」
「無理しないで」
「無理してないよ。ありがとう、理香子ちゃん」
納得のいっていない顔をしている。理香子ちゃんは思っていることが表情に出やすい子なのがわかる。素直で、優しい女の子だ。
すると眉間に皺をぐっと寄せ、
「……誰なの?」
「え?」
「美樹は私のこと"理香子ちゃん"って呼ばないもん。あなた、誰?」
警戒心をいっぱいに含んだ目線と声。なんと言えばいいのかわからなくて、下唇を巻き込んで噛んだ。
「あなたは美樹じゃないでしょ?」
ぐっと、喉元が痛む。
なんと言えばいいのかわからない。そんな簡単に真実を口にできない。
自殺したら未来からタイムスリップしてきちゃいましただなんて。
自分ですらこの状況を理解していないのだから。
夢じゃない、現実とするなら、この現象の原因は?
すかさず死なせずに、四十九日前の田舎に私を飛ばし、綾瀬美樹として生かした理由は?
わからないことだらけで、色々聞きたいのは私だって同じだ。
「話せないの?」
「……っ……」
どうして理香子ちゃんは私の様子が変だからといって、見た目は完璧に綾瀬美樹なはずなのに、そんなに迷いなく私が綾瀬美樹じゃないって言い切れるのだろう?
「もういい」
「え?」
「早く美樹を返して」
「……っ……」
睨まれるように、というよりは、懇願されるような言い方で、優しさがあった。
その場を立ち去って自分の席についてしまった理香子ちゃんがその日、私に話しかけてくることはなかった。