キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。
たとえ、夢であっても
死にたいと思って、死んだ。
死んだことは、初めて私が望んで手にした自由。飛び降りたときの解放感は、凄まじかった。ようやくいじめの地獄から解放されると本気で安堵したのだ。
そしたら過去にタイムスリップして、違う女の子の身体のなかで目覚めてしまったのだから、もう私はどうしたらいいのかわからなくなった。
どうして生き延びてしまったのか、どうしてまだ新垣ゆりの意識はこの世界に存在し続けるのか、考えれば考えるほど憂鬱で、早く終わらせたくなった。
だから、屋上のフェンスを乗り越えた。
なのにたったひとりの男の子が私を一瞬で救ってしまった。残っている時間だけでも、笑って生きたいって、そう思わせてくれたのだ。
生まれて初めての与えられる幸福に、胸のあたりがざわついて落ち着かない。幸せは、私には似合わないのかもしれない。幸せは、私の手には負えないのかもしれない。
こんな奇跡が私の身に起こるなんて、なんのバグ?
神様は、なにを企んでいるの?
これまでたくさん突き放してきたくせに、私が自ら死んだからって、罪滅ぼしのつもり?
運命の悪戯にしては、遅すぎるし、考え方によってはより残酷なのかもしれない。
一ヶ月半後にはこの世界から消えることが確定しているのに、最後に望んでいた幸せを得るということは、この世界に未練をつくることと同義なのでは?
死ぬためにやっとの思いで振り切った気持ちを、また、残してしまうんじゃない?
飛び降りる瞬間、最後の最後まで邪魔していた、生きることへの未練。
それでも命日になって、背中の数字がゼロになったとき、強制的に私の存在がなくなってしまえば、未練があってもなくても、関係ないの、か?
「違う人の身体にいるって、どんな感じ?」
「え?」
「いや、気になってさ」
朝のホームルームが終わるまではこのままでいよう。ふたりの間ではそんな雰囲気が漂っていた。