キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。



隼人くんは私に疑問に思ったことを尋ねてきた。遠慮がないのは、距離を感じさせない。
それはまた、彼の優しさなのかもしれないと思うと、嫌な気分にはならなかった。



「鏡の前に立つと違和感しかないけど……。でも、見えてる世界は誰のなかにいても同じだよ」



なんて言うんだっけ、こういう視点のこと。
エフピーピー、だっけ?


ふと下を見たときに見える自分の肉づきのいい脚や、胸を見ると綾瀬美樹のなかにいることを実感するけれど、景色を眺めるぶんには、違いはない。どうやら美樹ちゃんも私と同じで目は良いらしいから。



「そっか」

「うん」

「今日はどんなことをして特別な日にしようか」

「え?」



真剣に悩む横顔。見つめていることに気づいたのか、目線が私に向き、白い歯を見せて彼が笑った。
心臓がバネに押し上げられるように、弾んだ。



「だって一日も無駄にできねぇじゃん」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。ゆりの一日には意味を持たせなくちゃ」



私より、私のことをしっかり考えてくれている。それがダイレクトに伝わってくる。


だけど……。



「……今日はもう充分特別な日になってるよ?」

「え?」

「だって、隼人くんが助けてくれたから」



驚いた顔をしている。
どうやら自覚がないみたいだ。


隼人くんが、隼人くんの言葉が、私の心を救ってくれた。
それだけで、私の今日にはちゃんと意味があったよ。



「昨日だって、隼人くんに出会うことができた。花束も、くれた」

「…………」

「昨日も今日も、間違いなく人生で一番幸せな日だったよ?」



脳内でゆっくり、伝えたいことを選んで、組み立てていく。
苦手な作業だけど、きちんと言いたいんだ。


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